「職人探訪」カテゴリーアーカイブ

本堂金紙に蓮水彩色工事編

今回は二〇一四年九月にご注文を受けて二〇一五年一月末に表具し、二月中旬に引き渡しをした、金紙に蓮水を彩色をした表具工事についてお話ししたいと思います。

細部の修正作業
細部の修正作業

本堂の壁に描かれている蓮の絵は、よく「本堂に絵描きさんが来て描かれるんですか?」と聞かれることもありますが、平面の壁面の場合は、「鳥の子(とりのこ)」という和紙(通常三尺×六尺の大きさから「さぶろくばん」とも呼称)に金箔を押した紙に絵を事前に描いておき、それを本堂で表具していきます。
今回は最新の技術で、六尺より長いサイズの紙を使用しました。このサイズですと、縦方向には継ぎ目がありますが、横方向には継ぎ目がありません。

さて、実際の作業です。下地のべニア工事(この工事はお寺で施工される場合が多い)が終われば、絵師、金箔職人、表具師が本堂に伺い採寸をします。その際、絵師より下絵を施主のお寺様の皆さまにご覧頂き、確認なぜ指示に従うかといいますと、彩色の絵柄だけでなく、金箔の箔目も合わせていくからです。箔目とは、金箔は一枚一枚貼っていくので、隣の金紙との箔目を合わせないとずれてしまうからです。をいたします。

本堂では蓮の位置はもちろん確認しますが、よく気を付けなければならないのが、雲の位置です。
今回のお寺様は向かって右余間の天井画左余間より低いので、左余間の雲を少し高くしました。それも外陣に座ったり立ったりしてご住職にも確認していただきながら、どの位置にするか決めました。その後は工房での作業となります。

使用する金紙は、下地工事に入る前、注文を受けた時点で仕事に取り掛かっていましたので、すぐに絵師さんの元に届けられていました。絵師は金紙メーカーの担当の指示に従い絵を描いていきます。

絵を描き終えた金紙は、絵師さんから預かり、工事初日にお寺で表具師さんにに手渡しました。表具には三日間を要しました。それから一週間以上、本堂内の暖房を禁止です。これは、金紙の下地に貼った下張りの紙が、まだ乾いていないためです。急激に乾燥すると下張りの紙が急激に乾いてしまい、表の金紙を起こす場合があるからです。

表具が仕上がると、お寺の奥様は「他のお寺に来たみたい」と感激され、境内で下地工事の作業をされていた数人の大工さんにも見せておられました。
それから約十日後に「四分一(しぶいち)」という黒塗りの棒を壁面の周囲に打っていきます。これは金紙のめくれ防止です。その数日後に絵師さんとお寺に伺いつなぎ目部分で少しずれている箇所の訂正や葉脈などを描いて完成です。

お寺の奥様は本堂に絵が入り明るくなったから子供さん向けにお絵かき教室が開ければとおっしゃっていました。

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修復が終わった向かって左側余間 修復が終わった向かって左側余間

本堂漆塗純金箔押工事編

 

二〇一四年十一月から十二月にかけて、お寺様の本堂で漆塗金箔押工事をしました。今回はその様子を報告したいと思います。

修復前の柱。たくさんのしわができています。
修復前の柱。たくさんのしわができています。

工事を依頼されたお寺様の現状は、後門柱(ごうもんばしら)に金紙が貼ってあるのですが、その金紙と木地との間に空気が入ってしまい、たくさんのしわができてしまっていました。

まずは仏具の移動です。ご本尊を余間へ移し、金灯籠(きんとうろう)や瓔珞(ようらく)を外し、須弥壇(しゅみだん)は手前に移動します。両尊前(りょうそんぜん)の壇下(だんした)や余間(よま)の壇下の繰(く)り型と彫刻も、すぐ横の柱を塗るので外しました。移動した仏具は余間だけでなく外陣にも置きました。お寺様はこんなに大層に移動するとは思いもよらなかったようでした。

まずは現在貼ってある金紙をはがしていきます。はがしながら、柱のへこんだ部分に地(ぢ)の粉(こ)(珪藻土(けいそうど)を焼いたもの)と砥(と)の粉(こ)(粘板岩(ねんばんがん)の粉(こな))と生漆(きうるし)を埋め込んでいきます。この技法を堅地(かたぢ)といい、漆塗では最高峰の技術です。しかし、これをいっぺんに厚く塗るともろくなるので、塗っては研(と)ぎ、塗っては研ぎの工程を重ねていきます。

このお寺様で作業している方は四十歳代初めの方で、朝早くから夜遅くまで、ほぼ一人で根気よく作業されていました。お寺の方にもねぎらいの言葉をかけていただいたようで、職人さんも大変喜んでいました。

金箔を押しを見守るご住職
金箔を押しを見守るご住職

今回お願いした職人さんの工房の塗師さんは、京都でも多い方で、八名ほどおられます。この工房の職人さんは、東本願寺阿弥陀堂の漆塗工事もされている腕の良い職人さんです。

今回の漆塗の工期は、十一月五日から十一月二十五日まで、約二十日間かかりましたが、職人さんの熱心な作業により、予定より早く仕上がりました。最終日には私がお寺に出向き、仕上がりの確認をしました。

その後、一週間ほど漆の乾燥期間をおいて、十二月二日から金箔押工事に入りました。こちらの職人さんは親子二代でされていて、この日も二人で作業に入られました。まずは、塗ぶきといって、黒い状態の柱に箔下漆を塗っていきます。

漆を水で薄めるのですが、薄すぎると金箔がつかず、濃すぎると漆がねばってしまい金箔がきれいに柱につきません。ちょうど良いさじ加減の状態にして塗っていきます。この作業も二回から三回繰り返します。職人さんによると、漆塗の状態がよいらしく、非常に作業がし易かったとおっしゃっていました。

修復が終わった柱
修復が終わった柱

金箔押しの工程は二日間を要しました。数日置いてから、柱にコーティングをし、多少、衣(ころも)が擦(こす)れても金箔がはがれないような加工を施しました。十二月十一日には仏具を元の位置に戻して一連の工事は終了しました。

最初に仏具を移動した日から一ヶ月と六日の工期でしたが、冬場にも関わらず順調に工事を終えることができました。

建具職人編(障子取付け工事)

 

中尊・祖師・御代完成写真
中尊・祖師・御代完成写真

障子の取り付けができましたので報告いたします。

障子の取り付けには二日を要しました。まず障子の前に方立(ほうたて)てという柱と障子の間に取り付ける細い棒を取り付けしていきます。合い釘という柱と方立ての中に釘を入れます。大谷派7は余間の部分も障子なので、合計十二本の方立を立てていきます。
そして、下準備が終われば障子の取り付けです。当社では十数年前から狭い店内でするよりお寺の広い本堂の方が効率的なので外陣をお借りして作業をさせていただいております。

定規前の部分に閂の金具を設置するため、のこぎりで切るところ
定規前の部分に閂の金具を設置するため、のこぎりで切るところ

まず毛布を敷いた畳の上に設置する枚数分だけ障子を平たく並べていきます。そして障子と障子の間にボール紙を上下二枚ずつくらい挟んでいきます。あらかじめ木地合わせの時に建具屋さんが杖(つえ)というお手製の物差しで、並べた障子の幅と設置する場所の寸法が同じかどうかを見ていきます。障子の幅が設置の場所より狭ければボール紙を増やしていきますし、広ければ減らしていきます。

同じ寸法になったところで、裏側の黒い丁番から打っていきます。裏側には三枚の丁番を打ちます。そして仮吊りです。同じように反対側も打っていきます。開け閉めで自然に開いてきたり、閉じたりしないことを確認後、今度は表側の金具を打っていきます。

表側の金色の金具は錺金具(かざりかなぐ)とよばれ、まずはコーナーの金具を打ち、次に真ん中、そしてコーナーと真ん中の間の金具を打ちます。この金具は少し上下の両端によった打ち方をします。これは京都の仏壇にもみられる様式です。地域によっては等分に打たれることもあります。
錺金具で、一番難しいところは、中心の障子の出会い右側の持ち手がある部分、職人さんの間では定規前というのですが、そこを削り、閂(かんぬき)が左右に動くようにすることです。吊ってからもきちんとコの字型の閂鎹(かんぬきかすがい)にぶつからないになってるかを確認します。ぶつかる場合はコの字金具などをずらします。

3枚折6枚仕立ての場合、真ん中の2枚は裏側にも組子と金具があります。
3枚折6枚仕立ての場合、真ん中の2枚は裏側にも組子と金具があります。

今回のお寺様は、中尊前・祖師前・御代前の三間分の計六間分ありましたので、作業日数に二日かかりましたので、作業日数に二日かかりました。
出来上がりをご覧になったお寺様が、「ウチの本堂ではないみたいに立派やわ~」とおっしゃった時には疲れが和(やわ)らぎやりがいを感じます。また軸回式(じくまわししき)の金具でしたので、簡単に外れる様子をお見せしたら驚いておられました。

障子は本堂には言ったらまず目にする仏具でそのお寺様にとっては「顔」となります。そのお顔に恥じないような仕事をしていきたいです。

建具職人編(障子木地合わせ)

 

今回は仕事の精度が要求される建具職人さんのお話です。

木地あわせ
木地あわせ

先日、滋賀県内の大谷派のお寺様とご縁を頂きました。そこで、障子の木地合わせをするまでの経緯をお話いたいと思います。

まずは寸法を採(と)りに本堂へ伺います。私自身が行うこともあるのですが、今回は既存の本堂への設置のため、柱や長押の傾きが(業界内では傾きを「こけ」といいます。)大きかったので職人さんと同行しました。

採寸は一昔まではメジャーや下げ振りという、アナログ的な道具を使っていましたが、現在ではレーザー距離計やレーザー水平木器などを使用するので、より早く、より正確に計測できるようになりました。しかし今回、同行していただいた職人さんは、そのアナログ的な道具を使い、たいへん慎重に、そして時間をかけて計測される方で、その計測値はとても正確です。

次に計測した寸法を元に京都の工房で障子の製作です。製作には約一ヶ月を要します。木地の状態の障子ができると、一度、本堂に持って行き仮合わせをします。

長年使用された本堂は、屋根瓦の重みや地震などにより、建物自体の傾きが相当あるので、木地の状態で吊って確認をしないといけません。漆を塗ってからでは削ったり継ぎ足したりすることが可能なためです。本堂で木地合わせをしていると、手触りがよく木目も美しいため、坊守様から「漆を塗らなくても木地の状態でもいいくらいね。」とお褒(ほ)めの言葉をいただきました。

今回の本堂は、合計二十六枚の障子があり、四人の職人さんが二日間にわたって出向して作業をしてくださいました。仮合わせで難しいところは、やはりひずみをどこで吸収するかということです。

障子自体は一枚ずつ同じ寸法にするため。調整は障子外側の細い棒(方立といいます)で行います。左右の「こけ」はこれで解消しますが、前後の傾きは吊る位置を上下ににずらさないと真っ直ぐに立ってくれません。これらを調整し、スムーズに開閉できるようにするのが職人さんの腕の見せ所です。

軸回し式の上部受金具
軸回し式の上部受金具
従来の丁番式
従来の丁番式

 

障子の吊り方は、ひと昔までは「丁番式」とういう錺(かざり)金具に芯棒が付いていて折り畳みするタイプ(仏壇の障子によく見られるタイプ)でしたが、現在は「軸回式」といって、障子の上下に金具をつけて、その回転で障子が開閉する方式に変わってきました。

これは丁番式のように金具がへたり、障子が敷居や真ん中でぶつかることがないようにするため、また、大きな法要の場合でも簡単に障子が外せるようにするためです。

時間は要しましたが、これで漆を塗っても安心して設置ができます。

彩色編

 

色棚
色棚

私は彩色の仕事は描く仏具によって職先さんを分けています。彫刻に白い胡粉(ごふん)地をのせ、その上に濃い彩色をする極彩色(ごくさいしき)の得意な職人さん、彫刻に金箔を押してその上から淡い彩色をする職人さん、そして、金紙に花や動植物を描く職人さんなどにわけています。

なぜ分けるようになったかと申しますと、職人さんによって得手不得手の分野があり、また、彩色はお客様や私のイメージ通りに仕上げてもらわないと困る仕事だからです。職人さんに下絵や小さな絵を描いてもらって、本番の仏具に彩色する前にお客様に見てもらうこともあります。

今回は彫刻に彩色するのが得意な職人さんのお宅に訪問しました。工房内には彩色の絵具がきれいに並び、色鮮やかな仏具が所狭しと置かれています。

彩色中の菩薩像
彩色中の菩薩像

彩色師は外科医のごとく、若い方のほうがよいとされています。お医者さんが細い血管や患部を相手に執刀にされるように、彩色師も細くまっすぐな線を筆で描かなけければならないからです。この彩色師さんは五十代初めの方で、まさに脂がのっている所です。師匠のところで十二年ほど修行し、そして独立。現在はお一人で作業されています。

一方、金紙に描く職人さんは、親方を筆頭に十人ほどお弟子さんがいらっしゃいます。親方の主な仕事は、本堂等の表具した後の修正作業です。その作業の様子を見ていると、実際描かれている絵と同じ絵の小さなデッサンを持参され、そこには色の配合表が細かく書かれています。同じ色でも明るい色から暗い色までたくさんの種類があるため、修正する際にもそれを見ながら配合されて色を塗り重ねていかれます。

現場での作業
現場での作業

本堂は広いため、完成すると大きな絵画が本堂にされたようで、お客様もきれいになっただけでなく、明るくなったとおっしゃっていただくことが多く、私にとってもやりがいのある仕事です。

私は絵の心得は全くありませんが、経験を重ねるにつれて、見る目は年々肥えてきて、あれやこれやと彩色師と相談しながら色合いや色の濃さを決めていくこともあります。絵を描く工房を見学したいという要望も年々増えてきていますので、もし、この先彩色などを本堂にしたいとお考えでしたら、お気軽にお申し出ください。工房ご案内して職人さんの生の声をお聞きくだされば、もっと実感が湧いてくると思います。